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健康への意識が高まる中で、免疫力低下が気になっている人も多いのではないでしょうか。
感染症や病気などを防ぐためにも、できるだけ免疫力は高い状態を保っていたいものです。しかし、自分の免疫力が高いのか低いのか、判断するのは難しいですよね。
そこで今回は、薬剤師で漢方アドバイザーの大久保愛先生に「免疫力低下」について教えていただきます。免疫力が低下する原因や、高める方法なども解説するのでぜひ参考になさってください。
免疫力とは、体に侵入しようとする病原体から身を守り、体内で発生する異常な細胞と戦うための力です。
免疫力は、大きく分けると「自己免疫」と「獲得免疫(適応免疫)」の2種類に分類できます。まずはそれぞれどのようなものなのか見ていきましょう。
自然免疫とは、生まれつき持っている免疫力のことです。
外部から侵入しようとする細菌やウイルスなどの病原体、体内で作り出されるがん細胞など異常な細胞の持つパターンを素早く認識して攻撃し、排除する働きを持ちます。
獲得免疫(適応免疫)とは、さまざまな病原体や異常な細胞に出会うことにより、後天的に獲得する免疫力のことです。
例えば風邪のウイルスが体内に侵入すると、獲得免疫がその情報を記憶します。次に同じパターンを持つウイルスが侵入しようとしたときに、素早く認識して攻撃できるため、排除することが可能です。
ワクチンはこの獲得免疫の仕組みを活用し、少量の病原体を体に入れることで、その病原体に対する免疫を作り出します。
免疫は自己防衛システムなので、ちょっとした不調が免疫力低下のサインです。免疫力が低下する原因は、ホルモン変動や自律神経の乱れ、ストレスや睡眠不足など、さまざまなものが挙げられます。
私たちの免疫力は「白血球」という細胞がつかさどっており、その中でも「顆粒球」「リンパ球」に分かれています。
▼顆粒球とリンパ球の働き
成人の血液における比率は「顆粒球」が55〜60%、「リンパ球」が35〜41%で、比率がこの範囲に収まっていれば免疫力は高い状態です。
しかし「顆粒球」「リンパ球」のどちらかの比率が極端に増減すると、免疫力が低下していしまいます。免疫力が低いままにしておくと、内外の敵と闘えず、感染症や自己免疫疾患などを引き起こしてしまうのです。
ここからは、免疫力低下の主な原因をご紹介します。
免疫力が低下する原因の一つは、自律神経の乱れです。
自律神経とは心臓や血管の動き、呼吸、胃腸の働き、体温など、生きていくために必要なさまざまな機能をコントロールする神経のことです。自律神経には交感神経と副交感神経があり、この2つがバランスを取ることでさまざまな機能を正常に働かせていますが、過度のストレスを感じていたり、不規則な生活を送ったりしていると、バランスが崩れてしまいます。
交感神経が優位な状態では顆粒球、副交感神経が優位な状態ではリンパ球が増殖します。しかし前述した通り、免疫力を維持するには顆粒球が55〜60%程度、リンパ球が35〜41%程度である必要があるため、どちらかが優位になると免疫力が低下してしまいやすいです。
お酒やタバコといった嗜好品も、免疫力を低下させる原因です。
お酒を飲んで血中アルコール濃度が上昇すると、リンパ球の一種であるNK(ナチュラルキラー)細胞の働きが弱くなります。また過度にお酒を飲むと、病原体や異常な細胞を食べて分解するマクロファージという白血球の働きも弱まるため、病原体や異常な細胞を認識できてもうまく排除できません。
加えて、アルコールは体内でアセトアルデヒドという有害物質に変わりますが、アセトアルデヒドは細胞を攻撃する物質です。免疫細胞はアセトアルデヒドを排出しようと攻撃しますが、発生したアセトアルデヒドが多ければ多いほど、免疫細胞がダメージを受けてしまうので、免疫力が低下してしまいます。
タバコを吸うと、ニコチン・タール・一酸化炭素など200種類以上の有害物質が体内に取り込まれます。これらの有害物質が免疫システムを攻撃してしまうため、タバコを吸うと免疫力が低下しやすいです。タバコによって取り込まれる有害物質の影響は大きく、禁煙しても数年にわたって免疫システムに影響するといわれています。
お酒を飲み過ぎてしまう方や喫煙習慣がある方は、今すぐ見直すようにしましょう。
体の冷えも免疫力を低下させる要因の一つです。
血液には酸素を全身に送り届け、老廃物を回収する働きがありますが、血液中には免疫機能を持つ白血球があり、血流に乗って全身に異常がないかをチェックしています。血流が良い状態では、白血球がいち早く病原体や異常な細胞を察知できます。しかし、体が冷えて血流が悪いと発見が遅れてしまうため、効率良く病原体や異常な細胞を攻撃できません。
免疫細胞の働きが活性化される体温は、36.5度といわれています。そこから1度上がると、最大で5〜6倍程度免疫力がアップしますが、1度下がると30%も低下するといわれています。
女性の場合、妊娠すると免疫力が落ちてしまいます。
妊娠で免疫力が低下するのは、胎児を異常な細胞として認識しないように、免疫システムの働きが抑制されてしまうからです。胎児の遺伝子の半分は母親の遺伝子ですが、もう半分は父親の遺伝子になります。そのため、免疫システムが本来通りに働くと、父親の遺伝子を半分持った胎児が攻撃されてしまいます。
これを防ぐために、免疫システムの働きが本来よりも抑制されてしまうので、妊娠中は免疫力が低下してしまいます。普段なら症状が現れないような病原体による感染でも重症化する恐れがあるため、感染症予防を徹底しましょう。
腸内環境の悪化も免疫力が低下する原因の一つです。
免疫システムは複数の免疫細胞が連携することによって正常に働いていますが、免疫細胞のうち6〜7割程度は腸内に存在しているといわれます。これだけ多くの免疫細胞が腸内に存在しているのは、食事に付着した病原体が腸内に侵入する可能性が高いからです。
そのため、腸内環境が悪化してしまうと、腸内に存在する免疫細胞の働きが弱まり、免疫力の低下につながってしまいます。
免疫力低下のサインは、肌荒れや口内炎など、ちょっとしたところに現れます。
免疫力低下が起こっているときは、体内の分泌物に異常や変化が現れやすくなります。なぜなら、免疫細胞が細菌やウイルスと闘っているとき、敵に対抗するために分泌物を増やすからです。
▼分泌液による免疫力低下のサイン
病原体が侵入しているときは雑菌の繁殖も起こるので、分泌物の色が黄色くなったり、ベタついてしまったり、異常や変化が見られます。
唾液の分泌が少なく、口の中が乾燥してベタつきがちな「ドライマウス」になっている人は注意が必要です。
口は、一番初めに細菌やウイルスが侵入するところ。口の中が乾燥していると粘膜が敏感になったり、雑菌が繁殖しやすくなったりして、防御機能が低下してしまいます。
▼唾液の分泌が減ってしまう原因
噛む動作には幸せホルモン「セロトニン」を分泌する作用があり、副交感神経を優位にします。自律神経が整うと免疫の働きもよくなるため、唾液の分泌を促すためにもよく噛んで食べることは非常に大切です。
免疫力低下のサインで、最も分かりやすいのが便の状態の変化です。
▼便の免疫力低下サイン
腸は免疫とリンクしているところ。毎日の排便を確認すると、腸の状態と分泌物の状態が分かるので、目安としてとても分かりやすいポイントです。
特に便秘気味の人は、腸内に老廃物を長く留めているため、腸内環境が悪くなってしまいます。便のベタつきやおならの匂いの変化なども免疫力低下サインなので、ぜひ毎日チェックしてみてください。
ご自身で免疫力がどの程度あるかを正確に把握することは難しいですが、免疫力が低下しやすい状態にあるかどうかはセルフチェックで確かめることができます。
以下の項目で当てはまる項目の数をチェックしてみましょう。
当てはまる項目の数が多ければ多いほど、免疫力が低い可能性があるので注意が必要です。
免疫力が低下すると、私たちの体にはどのような変化が起こるのでしょうか。
免疫力低下によって最も心配なのが、病気に罹りやすくなることです。
▼免疫力低下によるリスク
免疫力が低下すると、些細なことに体が反応しやすくなります。また、美容面でもさまざまなデメリットを引き起こし、老化リスクも高まるので注意が必要です。
免疫力低下によって、ちょっとした環境の変化にも反応しやすくなります。
▼免疫力低下による過剰反応
「新しい場所に行ったら鼻がムズムズする」「珍しいものを食べたら蕁麻疹が出る」など、ちょっとした不調を起こしやすくなります。目の痒みや肌荒れなど、小さな変化も免疫力低下に関わってくるところです。
病気に強い体を作り、環境に左右されずに万全な体調で過ごすには、免疫力を向上させることが必要不可欠です。
これからご紹介する4つの方法を実践して、免疫力を向上させましょう。
免疫力の低下を防ぎ、高めるためには栄養バランスの整った食事を取り、腸内環境を改善させましょう。
栄養バランスの取れた食事を取ることは、健康に生活するための基本です。免疫細胞が働くためには栄養が欠かせないため、一日3食を基本とし、栄養バランスを考えた食事を意識しましょう。栄養バランスの取れた食事を取るには、日本の昔ながらの一汁三菜の献立にすると良いとされています。
ただし3食毎回汁物を食べると塩分過多になりやすいので、汁物は一日1杯にとどめるようにしましょう。汁物は、発酵食品であるみそを使ったみそ汁がおすすめです。さまざまな食材を入れて具だくさんにすると、多くのビタミンやミネラルを摂取しやすくなります。
前述した通り、腸内環境は免疫力に大きく影響するため、腸内環境改善に効果がある栄養素も意識して摂取することが大切です。以下のような栄養素を含む食品を摂取し、腸内環境を整えましょう。
また腸内環境改善のためには、腸内で悪玉菌が増えるのを抑制し、善玉菌の働きを活性化する効果が期待できる発酵食品も意識して食べるようにしましょう。代表的な発酵食品には、みそや納豆、醤油、ヨーグルト、チーズ、ぬか漬けなどがあります。
免疫力を高めるには、適度な運動を習慣化しましょう。
適度に運動する習慣があると、血行が良くなり、体の冷えが改善する効果が期待できます。無理のない範囲で、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動やストレッチを行うのがおすすめです。
ただし、過度の運動はしないようにしましょう。負荷が大きな運動をし過ぎると、体がストレスを感じてしまって、免疫力が落ちる原因となってしまいます。
ストレスをため込まないことも、免疫力の低下を防ぎ、高めるためには重要です。
前述した通り、免疫力を維持するには自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが取れている必要があります。ストレスをため込んで交感神経が優位な状態が続くと、顆粒球とリンパ球のバランスが悪くなるので、免疫力が低下してしまいます。また交感神経が優位な状態では、血管が収縮して血流が悪化し、細胞に必要な酸素や栄養が行き渡らないため、免疫システムが正常に機能しません。
ストレスは誰でも感じるものですが、ご自身なりのストレス発散方法を見つけて、定期的にストレスを発散しましょう。適度な運動もストレス発散に効果的です。
免疫力を維持し、高めるためには、必要十分な睡眠時間を確保するようにしましょう。
睡眠中は副交感神経が優位になるため、免疫システムが正常に機能しやすくなる上、睡眠自体がストレス発散にもなります。また睡眠をしっかり取ると、免疫細胞が記憶した病原体や異常な細胞の情報が、長く維持されるといわれています。加えて、睡眠中は成長ホルモンが多量に分泌され、日中にダメージを受けた細胞が修復されるタイミングです。十分に睡眠を取れば、免疫システムが正常に働きやすくなるので、免疫力向上効果が期待できます。
必要十分な睡眠時間は個人差がありますが、目覚めたときに熟睡感が得られる睡眠を意識することが大切です。そのためには、睡眠の質を向上させる必要があります。以下のポイントを意識して、睡眠の質を向上させましょう。
適度な運動やストレス発散も睡眠の質向上につながります。
Fitbitでは健康状態を記録することが可能。毎日の健康管理を行うことで、免疫力の状態を簡単にチェックできるようになります。
▼Fitbitでできること
「スコアが悪い日は休息する」「よくない行動を見つけて改善する」など、Fitbitを活用することで細かな健康管理ができ、さらに免疫力を効率良くケアできます。Fitbit以外にも他のウェアラブル端末などでも睡眠の点数や自律神経の状態も分かるものもあるため、健康管理のために活用してみるのもおすすめです。
免疫力低下は、加齢や生活習慣の乱れが原因となり、白血球のバランスが崩れることで引き起こされます。
免疫力が低下したまま放置すると病気にかかりやすくなったり、美容面でもデメリットがあるので、早めにケアすることが大切です。
免疫力低下のサインは分泌物の変化や異常、便の状態の変化などでチェックできます。ちょっとした体の変化にも気を配りながら、免疫力低下のサインをキャッチして、少しずつセルフケアをしていきましょう。